Jazz Dan Hitori

ジャズ・ピアノの自作音源、演奏動画です。毎週新作発表の予定。

Quiet As It's Kept

Quiet As It's Keptは、アルト・サックス奏者ボビー・ワトソンの曲です。知らなかったのですが、この曲は、ジャズ、ジャズ以外含めて、同名異曲がたくさんあるようです。検索するとだいたいまずマックス・ローチのアルバムが出てきます*1。昔、J-WAVEなどのFMラジオで、深夜にジャズを数時間に流していることがよくあって、毎日のように聞いていました。ボビー・ワトソンのQuiet As It's Keptも、しょっちゅう流れていたことがありました(おそらく1990年代で、たぶんJ-WAVEだったと思います)。リズムの決めとコード進行が、まさしくジャズ、という感じでかっこよく、かなり好きな曲で、当時採譜したりしてました。ところが、この曲、ボビー・ワトソンの代表曲とばかり思っていたのですが、意外と初演がわかりません。当時、No Question About It (1988)というボビー・ワトソンのCDも買ってよく聞いてたので、そこに入っているのだろうと思って探しましたが、どこかに行ってしまいました。そこでネットで視聴してみたところ、聞き覚えのある曲ばかりなのですが、Quiet As It's Keptは入っていない。もしかすると、日本版のみのボーナストラックだった、ということもありえますが。じゃあ他のアルバムかっていうと、ネットでボビー・ワトソンのディスコグラフィーをいくつか見て探したのですが、見つからない。1999年に、「Quiet As It's Kept」というタイトルのアルバムを出していますが、これは再演だと思います。また、ゲストとしてボビー・ワトソンが参加している日本人のピアニストのCDにもこの曲が入っていて、それも持っていたのですが、これもどこかに言ってしまいました…。また出てきたら情報を書き加えるかもしれません。

この曲、決めがあるし、メジャーな曲とも言えないので、セッションなどでも今まで一回もリアルでは演奏したことがありません。かっこいい曲ですが、ただ、テーマが長いですね。AABAですが、Aが20小節、Bが16小節、全部で76小節もあります。ということで、ビブラフォンも入れたこともあり(この曲はピアノ・トリオだとかっこよくないと思います)私の演奏も長くなってしまいました。ウッドベースが打ち込みなのですが、そこそこ高い音源を買って、結構リアルだ、と喜んでいたんだすが、この曲を作って見ると、やはりウォーキングの部分でリアルさがなくなります。本物のベースにはかないません。バラードとか、ソロの部分とか、意外とリアルに聞こえるのですが。しかし、やはりジャズベースはウォーキングが醍醐味なので、残念です。

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*1:ただタイトル曲の作曲はBill Leeということです。

キャバレー

前作と同じ「MAKI Ⅵ」からのカバーです。同じく原詩ラングストン・ヒューズ、訳詩斎藤忠利、作曲山下洋輔です。「港町」は、浅川マキによる別バージョンもありますが、「キャバレー」は他のバージョンは知りません。また、リッキー・イアン・ゴードン氏の曲集にはこの詩は入っていないようです。

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港町

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 毎週新作公開の予定、といいながら、忙しくて一ヶ月あいてしまいましたが、新作です。 

 「港町」は、浅川マキの1974年のアルバム「MAKI VI」*1に収録されている曲のカバーです。このアルバムのバックは、当時、ヨーロッパでツアーを行い熱狂的に迎えられていた山下洋輔トリオ(ピアノ:山下洋輔、ドラムス:森山威男、サックス:坂田明)に、稲葉国光のベースが加わった編成。このアルバムでは、バリバリのフリージャズのバンドである山下洋輔トリオが、非常にオーソドックスなジャズを演奏していて、それがまたとても良い。山下洋輔は、少年時代の私にとってはまさにアイドル的存在で、そのうち書こうと思っていますが、私は、中学生か高校生のころ、山下洋輔のまねをしてピアノでフリージャズごっこをして遊ぶところからピアノ演奏をはじめ、次第に調性のあるジャズ・ピアノを弾くようになった、という経歴です(ピアノのレッスンは全く受けたことがない独学なので、クラシックはほとんど弾けません)。「港町」は山下洋輔ビバップ的なソロもごきげんで、昔コピーしました(今回のカバーでもかなりフレーズを取り入れてます)。
 山下洋輔のことばかり書いてしまいましたが、もちろんこのアルバムは浅川マキのアルバムで、そして浅川マキの歌もほんとうに素晴らしいです。浅川マキはいわゆる「ジャズ歌手」ではないかもしれないし、このアルバムはすべて日本語で歌われていますが、「MAKI VI」は「日本語ジャズ」の最高傑作の一つではないか、と個人的には思います。
 ところで、すべて日本語で歌われている、と言いましたが、興味深いことに、いくつかの曲の歌詞は、英語の原詞があるのです。しかし、英語の歌があってその「歌詞」を日本語に翻訳したのではなく、英語の詩の日本語訳に、新たに曲をつける、という形で作曲されています。「港町」もそのうちの一曲で、ラングストン・ヒューズ(Langston Hughes)というアメリカの詩人の英語詩の、斎藤忠利(英文学者)による日本語訳に、山下が曲をつけています。ラングストン・ヒューズという人がどのような人か、というのは、詩を訳した斎藤忠利が日本大百科全書に解説を執筆していて、コトバンクで読むことができるので、以下引用します。

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ラングストン・ヒューズ

ヒューズ(Langston Hughes)
ひゅーず
Langston Hughes
(1902―1967)

アメリカの黒人詩人、小説家。ミズーリ州出身。コロンビア大学中退後、ホテルのボーイ、水夫など雑多な職を転々としながら詩作を続け、やがてV・リンゼー、カール・バン・ベクテンらの助力もあって詩壇にデビューし、1920年代のいわゆる「ハーレム・ルネサンス」の中心的存在として活躍した。黒人大衆との連帯感のなかで黒人意識の高揚と黒人生活の哀歓を、伝統にとらわれない自由詩型でみごとに歌い上げ、アメリカ黒人が生んだブルースの気分を芸術にまで高めた。詩集は『もの憂いブルース』(1926)以下、軽妙なタッチの『黒人街(ハーレム)のシェークスピア』(1942)、叙情詩集『驚異の野原』(1947)など。ほかに長編小説『笑いなきにあらず』(1930)、短編集、戯曲、2冊の自伝などがある。

[齊藤忠利]

『齊藤忠利訳『驚異の野原』(1977・国文社)』▽『木島始編訳『黒人芸術家の立場』(1977・創樹社)』▽『木島始訳『ラングストン・ヒューズ詩集』(1969・思潮社)』

https://kotobank.jp/word/%E3%83%92%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BA%28Langston%20Hughes%29-1582574

 「港町」の原詞となっている詩、「Port Town」は、1926年のヒューズの最初の詩集『もの憂いブルース』(The Weary Blues, Knopf, 1926)に収録されています。斎藤忠利によるこの詩集の翻訳が、『ニグロと河』というタイトルで1958年に出版されています(国文社ピポー双書)。浅川マキの「港町」もこの翻訳書をもとに作曲されたのでしょう。浅川マキなのか、山下洋輔なのかはわかりませんが、この詩人の詩をチョイスするセンスにもうならされます。近日中に同じアルバムからヒューズ原詞の「キャバレー」という曲もカヴァーしたいと思っていますが、この曲もすばらしいのです。
 ところで、この「港町」の英語原詩「Port Town」の方を歌詞とした曲も存在します。アメリカの作曲家、リッキー・イアン・ゴードン(Ricky Ian Gordon)さん*2が、ラングストン・ヒューズの詩をもとに作曲した曲集(1997年)に入っているということです。この曲が収録されたアルバムも発売されているようですが、youtubeで、Callie Sorrentoさんというソプラノ歌手が歌っている映像を観ることができます。

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 同じ詩に曲をつけたものとは思えないほど違っているところが面白いです。これはこれでいい曲ですね。ただ……これは完全にクラシック音楽の文法で書かれ、歌われているので、正直、詩の内容とは合っていない(あえて異化効果を狙っているのかもしれませんが)。その意味では、浅川マキの歌の方が、他言語に翻訳されているにもかかわらず、原詩の雰囲気を伝えているのではないかな、と思ってしまいます(おそらくリッキー・イアン・ゴードンさんは浅川マキの歌の方は知らないでしょうね)。

Happy Xmas (War Is Over)幸せなクリスマス(戦争は終わった)

ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」をリハーモナイズしてジャズにアレンジしました。加藤直樹さんが言うように、この曲は、脱臭され、単なる「意味」のないハッピーなクリスマス・ソングとして消費されています。

www.asiapress.org

アレンジしたからと言ってそれが変わるわけではないかもしれませんが…。 ちなみにコードはだいぶ変えていますが、キーとメロディーは原曲どおりで変えていません。
前衛芸術家のオノ・ヨーコさんは、赤瀬川原平の『東京ミキサー計画』という本を30年ぐらい前に読んで以来関心があったのですが、2003年に展覧会に行って一気にファンになりました。当時こんな文章を書いています。